【人生は何度でも】絶望からの再生: どん底から社長室へ辿り着いた男の物語

小説(フィクション)

あとどれぐらいで死ねるだろう・・・。
少し前までは寒くて寒くてどうしようもなかったが、もう、寒いという感覚もわからなくなってきた。

俺が寝ているこの外はおそらく雪が降っている。
寝床の屋根代わりに立てかけた段ボールにボツ。ボツ。と虚しく音が響く。

あぁ・・・。人はこうやって死んでいくのか・・・・。
あとどれぐらいかなぁ・・・。
俺が死んだら、誰か見つけてくれるかなぁ・・・。
俺の人生はなんともみじめな終わりかただったな。
母さん・・・こんな死に方になってごめんな・・・。
あともうちょっとでそっちに行くわ・・・。

・・・「こんにちわ~!」

なんだ?今、女の声が聞こえたが、人生の最後は女が迎えにくるのか?

「あの、すみません。大丈夫ですか?●●という団体の者で、少し、お話を伺いたいのですが・・・」

新手の詐欺みたいなお迎えだな・・・。詐欺をしようとしても俺はもう何も持っちゃあいない。
天国行きか地獄行きか試されているのか?
まぁ、あの世へ行く前に少しだけわがまま言ってもいいだろう。もう何日も何も食べていない・・・。

「もう何・・・日・・・も・・・食べて・・・い・・・なく・・て・・。」

腹から声を絞り出す。俺の声は聞こえたか?

「だ、大丈夫ですか!?少し待ってください。おにぎりとかあるので・・・。」

そう言うと女は袋の中から何かを取り出した。

「これ、食べてください。何日分かあるので、こちらもお渡ししますので。」

なんだ、おにぎりじゃねぇか。あの世には緑茶もあるのか。
最後の晩餐ってやつか。
あの世の使者も粋なことするねぇ。
ありがたく頂戴するか・・・・。

「あぁ。美味い・・・。」

あぁ、ここはまだこの世だったのか。
あともう少しで楽になれたのに。
余計なことしてくれたな。

「今、お話を伺っても大丈夫ですか?」

女は続ける。隣にいる仲間のようなやつも何やらメモを取っている。
どうやら、俺がなぜ雪の降る中、ダンボールの下で何も食べずに死にかけているのか聞きたいらしい。

そうか、こいつらはただ俺のようなやつのことを哀れみたかっただけか。
みじめだ・・・。

でも、食い物をくれた義理だけは返しておくか。
俺は今まであったことを話すことにした。

元々、真面目に会社員として働いていたが、景気の煽りを受けて会社が倒産したこと。その後、ほんの少しという気持ちから始めた酒とギャンブルにハマってしまい、嫁と子供が家を出て行ってしまったこと。この場所に来ればいい仕事があると言われ、なけなしの金ではるばるやってきたが、実際は自分にできる仕事がなかったこと。金もつき、土地勘もなく、どこに助けを求めればよいのかわからず途方にくれてしまい、気づいたらここにいて何日もたってしまっていたこと。などを話した。

「・・・自分が悪いのはわかっているんですが。全て自分の弱さが引き起こしたことなんですよ・・・。なんでこんなことになってしまったのかと悔やまれます・・・。生きるために働こうとしても仕事もほとんどないし・・・。もう、ここで人生を終えるのかと考えていました。」

ふと見上げると女は目に涙をためていた。

やめてくれよ。
余計にみじめになるじぇねえか。

「これ、炊き出しの場所です。毎日やっています。この道をまっすぐ行って、コンビニを右に回れば大きな公園があります。そこでやっています。あと、いろいろ情報も交換できますので。」

女は一枚の紙を取り出し説明した。

「ありがとうございます。」

俺は礼を言った。

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俺は今、社長室にある革張りの椅子に座りながらこの文章を打っている。

あの日、本当にお迎えが来ていたら今の俺はない。

人生、わからないものだな。