孤独の果てに問う人生──母の影、父の愛、そして私の選択/短編小説

小説(フィクション)

幼い頃、母の激しい性格と父の優しさの間で揺れ動いた少女は、母の死をきっかけに急速に変わっていく。 いじめを受ける側から支配する側へと変貌した彼女は、社会でもその力を武器に成功を収めたが、定年後の孤独と自己の存在意義に直面する。
母の性格を受け継いだのか、防衛本能がそうさせたのか──。自分の生き方を問い直し、過去の出来事が現在にどのように影響を与えたのかを紐解く感動作。家族、自己発見、孤独、そして赦しをテーマにした心に残る物語。

「私の生き方は間違っていたのだろうか?」そんな問いに悩むすべての人へ贈る短編小説。

幼少期

もの心ついた頃の記憶で覚えているのは、いつも母が父のことをなじっていたということ。
恐らくこれは母の元々の性格だと思うのだが、人の悪い部分や間違いを指摘し、優位に立つことで快感を覚えているようだった。

父はとても優しい性格で、そんな母の言葉を受け止め、刺激しないように、言われたことは言われたとおりに対応し、事を治める天才だった。

子供心に「父はなぜ母と結婚したのだろう?」と不思議に思っていた。

性格の激しい母の対応は父がしていたので、この頃、私が母に怒られたという記憶はあまりない。

もしかしたら数回はあったかもしれないけれど、あったとしても忘れてしまう程度で、むしろ娘の私の前では良い母を演じていたように思う。

少女時代1

そんな私の生活は、母が突然この世を去ってしまったことで大きく変化した。いや、もしかしたら関係なかったのかもしれないが・・・。

母は私が小学3年生の頃に癌になってしまった。
母が患ったのは希少癌と呼ばれるもので、10万人に6例未満しかない珍しいものだった。

延命治療をするもむなしく、癌が発見されてからわずか1年たらずでこの世を去ってしまった。

それからの父は荒れていた。いや、正確には母の闘病生活が始まってから父の様子は変だった。

あの優しかった父はもうどこにもいない。

うつろにどこかを見つめ、私が話しかけても反応しないことも多く、家の中は漆黒の闇が広がるように暗かった。

家庭内が暗いだけでなく、ひどいいじめにもあった。

私は学年で5番目ぐらいに入るほどには見た目がよく、勉強ができたため、先生には気に入られていた。

同世代の子供たちはそれが気にくわなかったようで、靴を隠されたり、家に私や家族の悪口が書かれた手紙が届いたりとさまざまなことがあった。

そこから私の性格も変わっていった。

少女時代2

これは母の血かもしれないし、子供ながらに防衛本能が働いて、こういう性格になったのかもしれないが、私も弱いものをいじめるようになった。

子供にしては悪知恵が働き、周りの人を掌握するのが上手かった。
要は飴と鞭を使い分けて、自分の子分のような存在を作ることにたけていた。

先生のことも見方につけ、いつしか私をいじめていた子たちと形勢を逆転するかたちで、学校内で一番優位な立場に立つことができた。

とても快感だった。皆が私の一言で動く。

言うことを聞かない者は輪の中から外せばいい。

成人後

成人した私は、OLとして企業に勤めていた。
相変わらず人を掌握するのに長けていて(仕事においてこの点は母の遺伝子に感謝したい)、順調にポジションを獲得。

会社の中でももちろん色々なこともあったが、なんだかんだで管理職まで上り詰めた。

定年を迎え、毎日ゆっくりとした生活を送っているものの、刺激もなく、会社勤めをしていた時の関係者と連絡を取ることも減っていった。

そんな生活を送っていると、急に死が目の前に近づいてくるようでいてもたってもいられない心境になる。
誰かと交流をしたいけれど、なぜか誰も私と距離を縮めてくれない。

周囲の役に立つようにと努力もしているし、私から関わりを持とうと声もかけている。それなのに、私の周りには誰もいない。

時折、同年代の女性が友人と仲良くしていたり、若い人と交流をしているのを見て、「私のほうが努力もしているし、経歴も輝かしいのに、なぜ周りに誰もいないのか。」と思ってしまう。

私の生き方に間違いがあったのだろうか。

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